夜明けの流星
ハロウィン大会かー。
ニコラルーンはなんとなく感嘆して溜息をつきながら、砂漠の金色のかぼちゃを裏ごししています。明日はパンプキンポタージュです。
三十年ばかり聖職者の顔をして教会に突っ立ってきましたが、そんなものは話にも聞いたことがありませんでした。四界はまだ見ぬ文化に溢れています。
正直くせになりそうでとても危険でした。
宝玉がぶつかりあうような声で、虫がころころと鳴いています。この辺りに多いあの虫は、透き通った瑠璃色の羽を持っているのです。月光を浴びてそれは、本物の輝石のようにひかるそうです……。
歓談を続けるカジャとサラディンを残して寝る前の下拵えをしていると、戸口から白い犬がじいっと見ていました。
いつの間に帰ってきたものでしょう。
「……何?」
湖の魚を三枚に下ろし、岩塩とリジン油をまわしかけながら、ニコラルーンは独り言を呟きます。料理の段取りでも知りたいのでしょうか、犬の分際で。
僅かにあどけなさの残る、けれど低い声が小さく戸口から届きました。
「……相談がある」
相談?
一瞬置いてニコラルーンは、ぎょっとして振り向きました。
月は豊満な体を、西の寝台に沈めようとしていました。
その幽光も届かない闇の中に、白い髪、白い肌。
自分と同じほどの背丈の青年が、じっとりと立ち尽くしていました。
同じ頃。
「……おや」
香木が焦げるような薫りをふっと感じ取り、サラディンは眉をひそめました。
「なんだ?」
怪訝そうなカジャに説明もせず耳朶の輝石ををひとつ引きちぎり、短い呪文の詠唱と共に床に叩きつけます。紅い石が砕け、同じ色の焔があがりました。見る間にその火焔が闇の色に染まり、
「――ご主人様、突然何のお喚びでしょう?」
それが祓われた後には、一人の男。
東の魔女の使い魔は、恭しく跪いて主を拝しました。
「ルシファード!サラ、何を――」
「星が流れましたよ」
サラディンの硬質な声が響きました。
「今年のハロウィンは少々、闇の息吹が濃いようですね。様々なものが生命の祖形に戻ろうとしてあがいています。星は東に墜ちたようです」
生命は常に形なくして存在することはできません。サラディンは、はっとして旧友に気遣わしげな視線を投げました。
「カジャ、あなたは大丈夫ですか?」
「大丈夫って、何、が――――」
かつーん。
小さな魔女がゆったりと長い組紐で首元に下げていた、金色の十字架が床に落ちました。彼の作為ではありません。
柔らかそうな髪がふっと質感を変え、白い肌とオレンジ色の瞳の色彩をそのままに形が歪みました。
「あ、あ――……、やっぱり……。」
サラディンは床に膝をつきました。相手と目を合わせるためです。
ルシファードもサラディンの肩越しに覗き込みました。
ベルベットの布地は床に広がり、その光沢にうもれるようにして、白いうさぎがちんまりとそこにうずくまっていました。
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