彼の一族のための告解





「早くこれを取れこのっ、役立たず!破戒僧!」
 白い髪の下から本当に苦しいのかと言うほど怒鳴られて、ニコラルーンは片眉を顰めます。
「別にサボってないんだから、あんまり急かさないで欲しいなあ」
 手元がくるってこーんなことになっちゃうよ。
 ぎゃあ、と男(元犬)の悲鳴があがりました。
 あ、ちょっと楽しいかも。
「……何をしてるんですか?」
「うわっ、あ、どうもいい夜ですね」
 さっきも会ったけど。
 白髪の青年を跪かせて楽しそうに上から首を絞めているところを東の魔女に目撃されて、清らかこの上ない風貌の聖職者はさすがに焦って笑顔をつくりました。
「いや、彼の首のリボンが取れなくて、苦しいらしいので取ってあげようかとあはは」
 相手の腕の中で、白いふわふわしたものが一生懸命もがいています。
「カジャ、降りたいのですか?」
 サラディンが膝をつくとその腕からうさぎがぴこっと走り出て、青年の喉元から下がっているリボンをくわえると思い切り引きました。
 先刻からどうひいても駄目だったリボンが、呆気ないほどするりと結び目がほどけました。
 咳き込む使い魔を尻目に、うさぎは今度はニコラルーンの足元まで来て、
「………!!!!」
 木の床を後ろ足で叩きました。
 たんたんたんたん!
「……威嚇してますね」
 私の可愛いティーにティーになんてことを!多分そう言いたいのでしょう。じたばたとするうさぎを再び抱き上げて、サラディンは白い青年と見比べました。
「……『ティーロ』。契約を覚えていますか」


***


「契約を覚えているか」
 男は尋ねた。
「君の告解を私は聴いた。一族のために、無闇な信仰を捨てると」
「覚えています」
「ならば何故、そんなところにいる?」
 その光を撒くような指でしめされた足元、ぼうと光る白い大地。苔。十月の金色の月。
「今更そこまであれに甘えるのは、あまり褒められたことではないな」


***


 閉じ込められていたシャボン玉が割れたかのように、幻はかそけき音と共に消えました。
 ニコラルーンは激しく瞬きをして、周囲を見回しました。




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