小さな魔女のSt.Valentine
世界の中心から少し北東に行ったところに、真っ白い苔の生している、まあるい山がありました。 砂糖をかけすぎたババロアのようなその山は、けれど冬には本物の雪にうずもれてしまいます。 「ティー、お前のおかげで無事にクリスマスも終わったなぁ」 「はい、ご主人様」 使い魔は今は青年の姿になって、普段ご主人様専用の大窯の前で、大きなボウルをゆっくりとかき回していました。 部屋いっぱいに甘い匂いがひろがって、この家は寒いというのに窓と言う窓を開け放しています。 けれど不思議なことに、雪原の一面に金平糖が散らばるように色とりどりの花々が咲いていました。雪原の様子も、なんだかシャーベットというよりはスフレのようで、まるで冷たそうではありません。よく見れば柔らかそうな、銀色の草原なのでした。雪は二月に入ってから、全部地にもぐってしまったのです。 「これは一時的なものだし、花だってよく見ればどれもバレンティヌスの涙だ。14日にはみんな消えてしまう」 ご主人様はまた、ティーロにはよくわからないことを解説しました。 「テンパリングは苦手なんだ。お前がお菓子をつくれて本当によかった。では、私は花を採ってくるから、続けて頼むな。いい子でお留守番してるんだぞ」 今日のお散歩は済んだしな、と言ってご主人様は、ふにふにと出て行きました。近場なので箒も必要ありません。 あの花々でこのお菓子にどんな魔法をかけるつもりだろう、と想像しながら、ティーロは再びかき混ぜ続けました。
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「まちがえた!」 「ってええ、間違えたって!!?」 チョコレートは今、のたのたと自ら人型をつくって起き上がろうとしていました。 「これはカバラの粋、土塊のアダム、第一界の偽法、未だ模らざる者、狂える守護神……」 「わかりやすく言ってくださいご主人様!」 「つまりゴーレムだ」 チョコレートの。 一人と一匹は固まりました。 危機感以上に、両者既に、巨大なチョコレート人間の両手に抱えられてしまっていたからです。 「魔法式を間違えた!どうにかしないと、このままじゃ魔女と犬のチョコレートがけになってしまう」 そのままでも充分美味しそうな外見をした小さな魔女は、焦って叫びました。 「ティー、よし!」 「よし、って……」 犬のしつけ。「待て」の次は必ず「よし」。「よし」を言われれば食べていい。 このうごうごしているチョコレート人間を。 「ご主人様、ぼ、僕こんなの無理です……!」 使い魔は涙目で振り返りました。 ご主人様は既に、二の腕の辺りにかぶりついていました。
『emeth』を『meth』となしてゴーレムをようやくただのチョコレートに戻した時、小さな魔女と小さな犬は、もうチョコを見るのもいやになっていました。
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